テストステロン補充療法（TRT）とは、加齢やストレスによって分泌量が減少したテストステロン（男性ホルモン）を経口薬、クリーム等で取り入れることにより、身体的、精神的活力の向上を目指す治療法です。

テストステロンが減少すると、精神的な症状として集中力・記憶力の低下、やる気の減少、不安感、イライラが現れ、身体的にはなかなか取れない疲労感、筋力・体力の衰え、性欲減退が現れることがあります。

上記を改善するため、テストステロン経口薬、クリームを用いたTRTはアメリカを中心に広く行われていますが、日本では未だ一般的ではありません。

テストステロン値をTRTによって正常な値に近づけると、血管が拡張され血液循環がよりよくなることが知られていますが、それだけではありません。
TRTでは下記の効果が得られるとの研究結果が発表されています。_[1]
　
　①明るい気分になり、体力が回復することで生活の質が向上する
　②体組成が変化し、筋肉量・強度が増す
　③認識能力が上がり、思考がよりクリアになる
　④骨密度が上がる
　⑤性欲、生殖機能が向上する

①明るい気分になり、体力が回復することで生活の質が向上する
プラセボ薬を用いた研究では、プラセボ薬を服用したグループよりもテストステロンを使用したグループのほうがはるかに大きく落ち込んだ状態から回復することができました。この効果の結果、テストステロン値が低くなった方はＴＲＴによって全体的な生活の質を高めることができるとされています。

②体組成が変化し、筋肉量・強度が増す
加齢とともに起こる体組成の変化は、筋肉よりも脂肪が増加することで起こります。TRTを用いることで、筋肉細胞へ直接働きかけ、脂肪を減少させ筋肉を増やす効果が期待できます。

③認識能力が上がり、思考がよりクリアになる
テストステロン値が高い男性は、アルツハイマー病に罹患しにく、逆にアルツハイマー病を患う男性はテストステロン値が低いという研究が発表されています。特に高齢になればなるほど、TRTによって認識能力向上の効果が実感できるといわれています。

④骨密度が上がる
テストステロン値が低い男性は、骨減少症、骨粗しょう症、骨折リスクが高いという結果や、特に背骨や臀部付近の骨密度が上がったとの研究もされており、TRTは将来的な骨密度の減少を予防できると考えられます。

⑤性欲、生殖機能が向上する
テストステロン値が低い男性グループの長期研究によると、TRTを受けたグループのほうが性欲を自覚する割合が高く、また性欲をより強く感じ、性交・睡眠に伴う勃起の回数が多かったという結果でした。

[1] N. Bassil, S. Alkaade, and J. E Morley. “The benefits and risks of testosterone replacement therapy: a review”. Therapeutics and Clinical Risk Management. v.5; 2009.

上記のような効果はあるものの、TRTには注意すべき副作用もあります。_[2]

一つ目は、赤血球増加症です。テストステロンは血液中の赤血球を増加させ、通常はこの効果が貧血を改善する良い効果ととらえられています。しかし、赤血球が増加しすぎると、脳卒中や心筋梗塞、血栓症などが起こりやすくなるとされています。

二つ目はホルモンバランスの乱れです。テストステロンは一部が体内でエストロゲン（女性ホルモン）に変換されることがあり、それによって胸の痛みや乳房の肥大、むくみが起こる可能性があり、場合によっては乳がんにつながる可能性があります。

三つ目は前立腺肥大化です。そのため、尿が出にくくなる症状が出たり、前立腺がんのリスクが高い方が使用すると症状が悪化するとの研究も発表されています。

[2] E. C. Osterberg, A. M. Bernie, and R. Ramasamy. “Risks of testosterone replacement therapy in men”. Indian Journal of Urology : IJU : Journal of the Urological Society of India. .30(1); Jan-Mar 2014.